ろ①:Lost in Translation

この作品をはじめて観たのは、地元のクラブ(*1)のバーカウンターだった。奥のフロアでのプレイに気を遣ってか、店内環境のためになのかは分からないが、映画はミュートされて映像だけが流れていた。国も世代も異なる、言葉のわからない主人公(*2)に…

れ①:檸檬

梶井の檸檬は素晴らしい。それへのオマージュである、長尾謙一郎が描いた『PUNK』内での檸檬型の爆弾はつまらない。長尾は好きだけれど、あれはいただけない。 檸檬は時折りぼくの頭のなかにぽこんと生まれる。それはわけのわからない涙と同様に、突然ぼ…

る①:流浪

歩くことが好きになったのは、大学を半期だけ留年して卒業した後に、春までのあいだがあまりに暇すぎて、それじゃあ歩いてみよう、と友人と共だって東海道をぷらぷらする機会があってからだ。 十二月の寒い時期に、寝袋とザックを背負って、横浜駅から西へ歩…

り①:リュックサック

小学校にもあがっていないくらいの小さな子どもたちが、リュックサックを背負ってとことこ歩いている姿をよく見かける。リュックサックは背負うものではあるけれど、あれらくらいに小さな子たちの背中で揺れているものは「背負う」というよりも「羽織る」と…

ら①:ライ麦畑でつかまえて

何度も読み返した本だ。『キャッチャー・イン・ザ・ライ』ではない。やはり『ライ麦畑でつかまえて』が良い。 はじめて読んだのは中三のときだったか。初読の感想はあまり覚えていない。けれども、それから高校で二度も読んだのだから、何かしらのつかえがあ…

よ①:夜

夜の、眠られるまでの時間の使い方が苦手だ。冷房も扇風機もテレビもWi-Fiもない六畳間ではすることが限られる。酒を呑みながら、TSUTAYAで購入した中古のアダルトビデオを鑑賞して、落ち着いたところで部屋を見回し、寝転がって、本を読むとい…

ゆ①:雄弁は銀

沈黙が金で雄弁が銀という格言が書かれているのはトマス・カーライルの『衣装哲学』らしいが、アマゾンのほしいものリストに長いあいだ入ったままで購入できずにいる。 この格言は、ずっと黙ったままでいろというわけではなく、然るべき時にはお口チャックし…

や①:やるせない

漢字であれば「遣る瀬無い」となる。ぼくはこの意味を、舟を漕いでいて、どこにも舟を停められるような、そうして足をつけられて陸地にまで辿り着くことのできる、水深の浅い瀬が見当たらない様子から、「どうにもできない」思いと捉えていた。遣る瀬が見当…

も①:モザイク

アダルトビデオにおいて、陰部にモザイク修正が掛けられていることを煩わしく思う時期があった。海外ウェブサイトが配信する無修正モノを知ってとびきり興奮した記憶もあるが、少し前から、どうもぼくにはアダルトビデオはモザイクの掛けられたものの方がよ…

め①:眼

眼は窪地にできた水たまりだ。池田山公園の、ひょうたん池の前でそのことを考えた。蚊柱の立つ水辺から空を見上げると、池を囲う木々の梢がまつ毛のようにして陽光を遮る。緑色の水の下では亀と鯉がのそのそ泳いでおり、景色を反映した水面にアメンボのつく…

む①:むなしさ

ずいぶんと長いあいだ、ぼくは空しさの周りをぐるぐると歩いていました。ぐるぐる歩いていても景色はちっとも変化しないので、代わりにぼくはスコップで土を掘って、それをせっせと空しさのなかへ放り投げていきました。滴る汗や筋肉の痛みが生の実感という…

み①:みること

みることに違和感を覚えたのは、友人のハイキックを顔面に喰らって卒倒し、眼鏡をなくしてからだ。意識が戻ったとき、鼻や口から溢れでる赤い血が友人宅の白い洗面台を次々に染めていっているのをみた。眼鏡がないことにすぐに気がついて、友人に眼鏡のこと…

ま①:間(*1)

「間」という言葉を知ったのはダウンタウンの口からだろう。 などと書きながら「魔王」であるぼくを意識しはじめているから厄介だ(*2)。だから酒は良くない。いまは月曜日の朝。昨夜の早くからウイスキーを飲みすすめ、記憶なく朝が訪れた。ママチャリの…

ほ①:本当のこと

本当のことを言うと、あるいは、本当のことを言おうとすると、ぼくの眼には涙がにじむ。 そんな経験が何度かある。おそらく、一番はじめは家族の前で就職はしないということを告げたときだった。次は、数年前に女の子に告白をしたとき、そうしてつい最近、バ…

へ①:屁

屁はガスだ。摂取された食物が消化されていく過程で生まれるらしい。 (*1) 屁は、大方のイメージとして臭いものだ。臭いものの代名詞は糞の方かもしれないが、糞だとビジュアルすらもイメージされるために、気体である屁の方が使い勝手がいいだろうと思…

ふ①:ふらり、不図

ふとしたことを好きでいたい。 自分なりの相関図や星座などを拵えているが、その隙間を縫うようにして、からかうようにして、時折り、図らずも訪れた思いに連れられてぼくは脇道へそれていく。 「不図」は、風をつかまえるため、空方へと伸びやかに枝葉を広…

ひ①:暇つぶし

「人生は死ぬまでの暇つぶしだ」と言えるようになれば、きっとずいぶんと楽な心持で毎日を過ごしていけるのだろうけれど、そんなことを言うのは、本気で気が違えたように悟った人間か、そう思いたくって自分に言い聞かせているような人間か、そのふたつのう…

は①:墓場

昨夜、住宅地のなかにひっそり佇む、或る墓場の前を通った。規模は小さいが、卒塔婆などもある、いわゆる旧式の、本寸法の墓場といった感じで、時刻はずいぶんと深かったから人の通る気配もなく、近くにそびえる高層マンションの窓明かりもずいぶん数を減ら…

の①:農

耕すということをしたのは、小学生のときに、母に連れられていった大田原少年自然の家(*1)以降では経験がないように思う。そのときの思い出は、母の運転する車でくねくねと曲がる山道をすこし怖い思いをしながら現地へ向かって、稲を植えたり、猪鍋をつ…

ね①:根

先週から、日曜日には目黒の植物教育園を散策する時間を設けた。今日で二度目だ。散策と言っても、滞在時間のうち八割は水生植物園付近のベンチで寝転がっているだけだ。と書いて、「ね①:寝る」にしておけばどれだけ楽に書けただろうかと後悔している。 「…

ぬ①:抜け殻

子どもの頃は、蝉の抜け殻を見つけてよく喜んでいた。抜け殻の、透きとおる色と光沢と、ヤワな感触が相まって、宝物のように思えていたのだろう。それを見つけると、今でも、少しく嬉しい思いがする。 度々、路傍で抜け殻を見かける。人に捨てられたゴミのこ…

に①:似ている

あるいは「似せる」と言うべきかもしれない。人が初めて向かい合う対象を自身のうちに取りこむ際に働く意識についてだ。 たとえば、人に、ぼくの気に入る音楽を聴かせると十人に七人(*1)は、 「これはいったい何というジャンルだい」 だとか、 「ははん…

な①:夏休み

今朝はひさしぶりに早く起きることが出来て、陽射しの弱い早朝の道を自転車でのろのろと進んでいた。すると今朝はなんだか小学校低学年くらいの子どもをよく見かける。ちょっと異常な数だ。テレビ番組で子どもの健康特集などが組まれて、子どもの早朝散歩が…

と①:トーキングヘッズ

ぼくはなにかに担がれている(*1)。あるいは、ぼくは或る一輪挿しの花である。そのことは、ぼくが我を忘れ、我にかえったときにはじめて思われたことだ。つまりは、不確かな所在をどう説明するかの話だ。 そのように考えるのは、もしかすると、ぼくが一度…

て①:テレビジョン

いわゆるテレビのことではない。いや、結局はテレビのことなのだが、ちょっと違う。 数年前、或る女の子にフラれた早朝の東高円寺で、曇りがかった空の遥か上の方からぼくを覗き観ている存在を察知した。と書くと気が狂ったように思われるかもしれないからタ…

つ①:束の間

今回、はじめて言葉を調べてから書きはじめた。「つ」から、何気なく使っていた「束の間」が浮かんで、果て、そもそもこれはどういう意味だったかと分からなくなってしまったからだ。ネットで「束の間」を調べてみると、 goo辞書:《一束(ひとつか)、すな…

ち①:知

今朝、シェア用の自転車が数台置かれた狭いスペースの前を通った。2020年の東京オリンピック(*1)に向けて、さまざまな業界がシェア概念を拡大、浸透させていっているところなのだろう。 シェアサイクルをみかけることが別段に目新しいわけでもないが…

た①:立ち漕ぎ

「た①:立ち漕ぎ」 部屋を変えてから毎日、職場まで自転車通勤している。片道二十分ちょっとで、ちょうど高校の頃の自転車通学と同じくらいだろうか。自転車に乗る毎日というのも高校以来で、自然と当時のことを思いだしたりもする。見る景色はぜんぜん違う…

吉田和史× 夜窓結成一周年ライブ観賞記

7月23日(日)、新宿御苑近くの「bar toilet 」で開催された、T君の所属するバンドのライブへ行ってきた。そのときの感想を書こうとは思うし、だから観賞記と題したのだけれども、音楽の話はほとんど出てこない予定だ。 この日は、前夜から暑さのために…

そ①:粗忽

思慮に欠けるとか、落ち着きがないという意味だ。ぼくはこの言葉を落語で知った。「え①:絵描き」の注釈ですこしだけ触れたが、ぼくにもこういう面がある。というのは、なにか自分のなかで関連させられるような事があるとすぐにテンションが上がって「そうに…

せ①:銭湯

今年に入ってから部屋を越した。それまでは知人とルームシェアしていたが、年明けのお参りのためにふらり立ち寄った町の雰囲気に心を奪われ、翌週には不動産屋でその付近の部屋を内覧し、はやばやと居住決定。その翌週に契約を済ませ、二月初頭から、ようや…

す①:酢

酢が好きだ。暑くなってきたから余計に。 ある時期から、餃子は酢だけで食べるようになった。 昨日、銭湯の脱衣所で身体を拭っている時に、番台のおばちゃんの観ていたテレビが酢を取り上げていた。そのなかで「餃子は酢と胡椒だけで食べる」という発言があ…

し①:蜃気楼

サトゥルヌスと出逢って以来、ぼくは「蜃気楼」というものをよく考える。それには他の要因も大きく働いている。見るということの不思議さだ。 ぼくは視力が悪くて(裸眼で生活するのにそれほどには不便を感じないくらいではあるが)(*1)、ものが霞んで見…

さ①:サトゥルヌス

ぼくがサトゥルヌスと出逢ったのは去年の秋だ。昼間から喫茶店でコーヒーを何杯も飲み、蕎麦屋へ行って酒を飲み、また違う喫茶店でコーヒーを飲むなどしながらものを書いていた日の夜だ。 深夜零時をとうに過ぎ、しかし頭はすっかり興奮したままで、布団のな…

こ①:コラージュ

高校の美術の授業で製作したものが全部で四点ある。そのうち、はじめの作品がコラージュだった(*1)。これは、当時仲のよかった、そうして音楽や小説の話のできる唯一の友達だったH君の影響で制作したものだ。彼とはクラスだけでなく選択授業だった美術…

け①:化粧

化粧の出来上がりではなく、その過程が好きだ(*1)。 ずいぶん前に、NHKのドキュメンタリー番組が化粧ルームを取り上げていた。鏡のまえに座って真剣な表情でメイクを施していく姿がとてもよかった。この感想を持つに至ったのには、もっと昔に、歌舞伎…

く①:空気

空気の澄んだところがいい。けれども空気の悪い都市生活に慣れてしまった。時々、そのことを身体の方で咎めてくれるために、風邪や何かの症状があらわれる。熱や汗や下痢や嘔吐や涙によって身体が洗われるのだ(*1)。 しばらくぶりの帰省で、あるいは遠い…

き①:着物

着物が欲しい。落語を観ていての憧れだ。しょっちゅうは着ないにしろ、遠い旅に出かける代わりに着物姿で出歩きたい。そうすれば少し世界が変わるような気がする。 ずいぶん前に『ニッポンのサイズ 身体ではかる尺貫法/石川英輔』を買って、ほとんど読めて…

か①:柿

何よりも先んじて頭に浮かんだのが「柿」という言葉なのだが、すぐには書く内容が思いつかないので困った。「牡蠣」であったならば多少は救いがあったように思う。父が昔に生牡蠣で食あたりを起こしたというエピソードから何かしらの広がりが見えそうなのだ…

お①:尾ひれ

「尾ひれをつける」という表現がある。話などに誇張を交えることや、事実でないことを付け足すというような意味合いで用いられる。 頻繁には耳にすることのない言葉だから、みんながどのような思いがあって使うのかよくわからない。「事実でない付け足し」と…

え①:絵描き

物心ついたときから絵を描くのが好きだった。それは絵の上手い長兄の影響だ。十二歳はなれた長兄は自分でパロディ漫画を描いて、幼いぼくはよくそれを見て楽しんでいた。聖闘士星矢のパロディだったはずだ。長兄オリジナルの、丸いのっぺらぼうの顔に口だけ…

う①:宇宙

大学時代からの友人であるS君(*1)は、たとえば一緒になって酔っぱらい、心地のいい音楽を聴き呆けていると、静かに「宇宙」と独り言つ。その言葉をはじめて聴いたのは、二十歳前後の頃の彼の部屋だったか、野山の中の暮れ時だったかははっきりとは覚え…

い①:井川遥

特別に彼女が好きだったというわけではない。それなのに「い」からはじまる言葉で何よりも先に彼女の名前が思い浮かんだ。 当時(というのはぼくが中学一年生くらいの頃だから十五年以上前のことだ)、彼女はたしか「癒し系」というようなキャッチコピーで人…

あ①:アーロン・ゴルドベルグ

突然に自分なりの事典をつくろうと思った。その時に聴いていたのがアーロン・ゴルドベルグで、ちょうど「あ」からはじまるからふさわしいと考えた。 聴いていたのは、彼がギレルモ・クレインと共作したアルバム『BIENESTAN』だ。ぼくは彼の作品をこのアルバ…

ヴォルス展とわたしのアタマとメンタマ

7月2日の日曜日(*1)にヴォルス展(*2)へ行ってきた(*3)。素晴らしかった(*4)。 以上。 ゆえに以下同文。 ーーー*1:勤務しているカレー屋(*A)は毎週日曜日が定休日で、遠出をするには定休日の日曜日か、月に一度だけ貰える平日休みを…

日々のおおよそ

午前五時半に起床し、眠たい頭のなかに覆うような霧を、小瓶に入った柑橘系のアロマで霧消させる。顔を洗い、銭湯セットを準備して、ママチャリで二十分ほどのファミレスへ向かう。 早朝のやわらかい気候が寝起きの身体に無理なく、人と車の少ない道を心地よ…

のどちんこ

ぼくにはのどちんこがない。ずいぶん前に切除したのだ。いや、実際に切除したのはその周辺の扁桃だから金玉がないと言ったほうがより正しい。どちらにせよぼくは、喉において去勢されていると言ってもいいだろうと思う。 なぜそんな大げさな手術をしたかと言…

「ビンローの封印」観劇記

6月4日の日曜日。午後五時に新宿駅東口改札でT君と待ち合わせ、思い出横丁で一時間ほど飲む。酔い心地のなか、T君の先導で都心のオアシス花園神社へ。事前に彼が整理券を貰ってくれていたためにスムーズに列へ加わることができ、紅テントのなかへ。 子宮の…