日々のおおよそ

午前五時半に起床し、眠たい頭のなかに覆うような霧を、小瓶に入った柑橘系のアロマで霧消させる。顔を洗い、銭湯セットを準備して、ママチャリで二十分ほどのファミレスへ向かう。
早朝のやわらかい気候が寝起きの身体に無理なく、人と車の少ない道を心地よく漕いでいく。
ファミレスにはいつもの早番のおばちゃんがいて、スクランブルエッグセットのトーストを注文し、ケチャップなどは抜いてもらう。メニューが運ばれてくるあいだにドリンクバーのチープなコーヒーを口に含んで煙草を一本吸う。携帯にメモしたことや思うことをPCへタイプしながら、その日あらたに書くことを考える。
メニューが運ばれるとPCは端へ置き、食事を済ませる。冷めてしまったコーヒーを注ぎ足しにいき、食後の一服。それから九時半まで煙草を吸いながらタイプしつづける。
十時前に勤務先の店へ出勤し、早くに来ていたアルバイトのコ(とは言えど年上の女性)とチャクラの話などをしながらカレーの仕込みをはじめる。十時ぎりぎりにもう一人のアルバイトのコ(この娘はひとまわり近くも年下の子)がやってきて、それから数分後に店長が出勤してくる。
適当な会話や無言を挟みながら十一時に開店。この頃には眠くなってしまっている。とは言え、店が忙しくなると眠いのも忘れて身体が動きだす。店内に流れるジャンゴ・ラインハルトや、ムッシュ・ペリネ、ルー・リードの音楽が思考と身体とを妙な具合に離ればなれにさせ、引き合わさせる。そのことを心地よく思う。
客足が一旦やむと、うつらうつらとなりながら、翌日のルウ用の玉ねぎを剥く。眠気の限界が訪れたら、バックヤードへ引いて一服する。雑多に物の置かれた狭苦しい、暗い空間に、小雨の降りしきるような視細胞の発火を眺めたりなどする。
午後一時頃に腹が減りはじめる。朝食から五時間以上が経過しているのだから無理もない。胃にできた空洞が、その気圧差で、食糧を催促するように内臓をぐっと縮こませる。外へ通じる口腔はそれに連れられ、口寂しさを感じて、ものを求める。しかし、こらえて三時からの中休みを待つ。
三時過ぎに最後の客を追い出し、ようやく昼食にありつける。急いで済ませると、パソコンをもって徒歩十秒のチェーン店のカフェへ行く。一番小さいサイズのコーヒーを注文し、チープな灰皿をもって喫煙席へ。椅子に腰掛け、パソコンとコーヒーと灰皿の位置を微調整して、ここで食後の一服を吸う。それから一時間、朝の続きや、別の思考を巡らせる。
五時前に勤務店へ戻り、夜営業の支度をする。ここからはおおよそ一時間ごとにバックヤードへ引いて一服する。そのあいだにネットを閲覧する。なにか閃くものがあればメモを残し、明日のための種を蒔く。
午後九時過ぎに店を閉め、ママチャリで朝に来た道を帰る。途中にある銭湯の熱い湯に浸かり、その日の垢を落とす。
部屋へ戻り、換気と歯磨きを済ませて早々に布団へもぐる。淡いオレンジの間接照明のもとで、ゆっくりと本を読みながら知らず寝息をたてる。
翌朝、午前五時二十分の一度目のアラームをやり過ごし、十分後に柑橘の香りを嗅ぐ。むくり起きて、顔を洗い、銭湯セットを準備し、自転車を漕いでいく。覚めきらないまぶたは気だるいが、早朝の日差しの柔らかさを再確認する。

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ここ二週間。私のうちで、ごくゆっくりと根は蠢いて伸び、なにか得体の知れないものをつかみはじめている。それはおそらく、早朝の日差しのように、再び出逢うようなものだろうと思う。