2018-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ぢ①:ぢ

「ぢ」ではじまる単語がない。 昔には「じ」と区別される発音があったらしい。だから昔には「ぢ」ではじまる単語も発音もあった。 「適者生存かね」 男が言う。 発音記号はあるようだ。けれども、まだ「ぢ」が話されていた時期にすでにその発音記号はあった…

だ①:だらだら

旅行もはじめの頃は、夜にガイド誌のページをめくって翌日のおおよその計画を立てていた。 けれどもしばらくしないうちに、特別に物欲があるわけでも、グルメでもなく、必ず拝みたい景色というのもこれといってなく、どうも観光は苦手らしいことを知ってから…

ぞ①:ぞくぞく

見知らぬ土地のバス停や鉄道駅に立ち、目的地へ向かう乗り物を待つ長いあいだ、果たしてここであっているか、もう行ってしまったのではないかと心は浮き足だつ。道中の安全を願う素振りは見せず、けれども内心では異常に不安がっている。 辺りを見回すと、同…

ぜ①:ぜえぜえ

どうして私は上りはじめたと、長い階段の先を眺め上げて嘆息する。それなのに、次の段へのっそりのっそり足を運びつづけるのだから不思議だ。 モロッコ北部の山間にシャフシャウエンという小さな町があって、傾斜に青い家々が並び建っている。青くメルヘンな…

ず①:ずきずき

渓谷の、初心者向けのロッククライミングで擦り剥いた手の傷がシャワーで少し痛む。 インストラクターは無口にタバコを吸いながら、私の命綱を下の方で握っている。ロープはたびたび弛んで心もとない。けれども二十メートルほど登ったところで後に引くのも癪…

じ①:ジュラバ

ジュラバというのはフードのついたベルベル人の伝統衣装で、ジェダイの騎士やねずみ男も着ている。乾燥して砂風のよく吹くモロッコでは防塵の役割を果たしているらしい。 フードに顔を引っ込めて隠し、とぼとぼと歩いていく老人の姿を街でよく見かける。 袋…